【お気持ちだけいただきます】- 現代に使いたい日本人の感情、情緒あふれる言葉
人の好意を断るのは難しいものである。どのように断るか、断り方が難しい。下手に断ると、相手を傷つけるし、場合によっては憤慨させることもある。
こういうとき、日本語には重宝な言い方がある。
お気持ちだけいただきます。
お気持ちだけ頂戴いたします。
お気持ちだけでじゅうぶんです。
重そうな荷物を持って坂道の途中で一休みしている高齢の女性が、高校生の男の子に、
「荷物、持ちましょうか」といわれ、
「なんてやさしいんでしょう。声をかけられただけで元気が出ました。お気持ちだけで十分です」と返事する場面を目にしたことがある。
欲しくもないものを断る場合も、この言い方は重宝である。
訪問先で苦手な甘い物を出された場合も、
「せっかくですが、甘い物、苦手なんです。お気持ちだけいただきます」
仕事関係で、受け取ると贈賄になる関係の会社や人物から贈品が送られてきた場合、
「先日御社よりご贈品が到着いたしましたが、これをお受けするわけにはまいりません。お気持ちだけ有難くお受けいたします」というふうに用いると、誠意を示すことができる。
なお、同様の言い方に「お気持ちだけでけっこうです」というのがあるが、切り口上の感じがしなくもないので、やはり「お気持ちだけいただきます(頂戴します)」のほうが語感もやわらかく無難だろう。
文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。