東 雑記帳 - スルメ(あたりめ)は日本の発酵食品

東 雑記帳 - スルメ(あたりめ)は日本の発酵食品

正月近くなると、スーパーマーケットではイカの丸干し、つまりスルメ(あたりめ)が売り場にぶら下げられている。新巻鮭はめっきり見られなくなったが、スルメは健在。

三十代の頃だったか、香港に旅行した折、下町の繁華街を歩いていると、通り沿いに屋台があった。近寄って見ると、日本で焼き鳥を焼く道具のもっと小さくしたものでイカを焼いている。そして、飲み屋のあたりめのように縦に裂いて紙のトレーに入れて売っている。
物好き故、買って食べてみたが、味はスルメとはまるで違い、おいしくない。噛んでみても、乳酸菌のような味が全然しないのである。
同行の妻に食べてみるように促したが、妻はがんとして口にしなかった。

なんだろうあれは、どうしてあんなにまずいのだろうと、ずっと頭の片隅に引っかかっていた。
その疑問が解けたのは、ある週刊誌の日本の食をレポートした連載にイカが取り上げられている記事であった。そこには、「スルメは日本の発酵食品」だと書かれていた。
浜でイカを干すと、そこに固有の細菌が付いて発酵するというのである。
なるほどと、合点がいった。香港の下町で焼いて売っているスルメは、どういう方法で乾燥したかわからないが、乳酸菌発酵をしていない。だから、乳酸菌の味がしないのだと、はじめて納得できた。

さて、ところで、今スーパーで売っている丸ごと一匹のスルメは乳酸菌発酵しているのかどうか。購入して、焼いて、食べてみて、自分で自分なりの判断をするとよいのだろうか。道楽に。

 

文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。