東 雑記帳 - ダヴィンチと鏡文字と聖人の肖像画
次回に続き、鏡文字に関して。
かのレオナルド・ダ・ヴィンチは、『内臓が生みだす心』(西原克成。NHK出版)によると、
人物図を描くとき、顔の左右差をなくすために、鏡文字を書く訓練をしたという。
なぜなら、利き手があるから、人物画を描くとき、顔に左右差が出るのは避けられない。
人の顔は、多かれ少なかれ左右で差がある。それは、利き手があるし、体にも利き手に相当する側がある。そのため、顔に左右差が出る。
前出の本の著者、西原氏の記述によると、顔の左右差は西原氏機能差によるものだという。右利きの人の多くは、利き顔は右になる。゜
つまり、顔の左半分はうっとり顔(ブロイラー側)で副交感神経優位型、右半分が活動型(地鶏型)で交感神経優位になっているという。
「女性の写真や絵では、左側が多く描かれているが、これは『うっとり顔』のためでしょう」
そう言えば、マリリン・モンローの極め顔も左側である。
しかし、なぜダヴィンチは鏡文字を書く訓練を積んだのか。それは西原氏によると、聖人の顔には左右差がない。左右差がないほうがよいという。だから、
「ダヴィンチも右手で鏡文字を書いて左右差をなくしたらしいのです。左右差は芸術にも差し支えるのです」
聖人の肖像画は、左右差がない顔にしなければならない。そのために鏡文字をマスターしたらしい。
なるほど、ダヴィンチのように利き手で鏡文字を書く訓練をすれば、右手で左右が反対の文字が書けるようになるだろう。しかし、それでは祖父のように左右同時に通常の文字と鏡文字を書くのは無理だろうと、いずれにせよ自分には到底習得ではそうもないことをぼんやり考えるのであった。
文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。