東 雑記帳 - ヘアクリームで髪が黒くなり、独身に間違えられた!?
シルバーチェックという名前のクリームを頭に塗ったところ、翌朝には髪が黒みを帯びてきていた。しかも、根本からである。
この速効性には驚いた。
それから毎晩、入浴して洗髪した後にこのクリームを塗ったところ、一日ごとに黒みが増してくようであった。洗髪しても色は薄くならない。
塗り始めて三、四日後、韓国のソウルに一人で旅立った。韓国はそれまでに時々入っており、この時が七回目だった。これといって特に目的はなく、ただ街中をぶらぶらするだけである。
宿は、仁寺洞の韓式旅館で、このスタイルの旅館に泊まるのは三回目だった。
仁寺洞は人気の観光地で、食べる店には困らないし、近くにも飲食街がある。
賑やかな通りから外れたところのビルの二階に、昔ながらの喫茶店を見つけて入った。ボックス席へ座ると、四十近いと思われるウエイトレスが注文に来た。英語はまったく通じないが、ホットコーヒーは頼むことができた。
次の日もその喫茶店に出かけた。客は男が二人いたが、いずれも中年である。一人の客のボックス席の向かいに、二人のウエイトレスが座って、何か喋っている。その日、自分のところにもウエイトレスが一人来て、向いの席に勝手にすわり、韓国語でしゃべりかけてくる。すると、もう一人もやってきて、二人で何かこちらに向かってしゃべる。
言葉は通じないが、相手が何を聞いているかわかった。
「奥さんはいるのか」と、たずねているのであった。
日本語か、あるいは片言の韓国語で答えたのかわからないが、「いる」と相手に通じたようで、それきり、二人がそのことを聞いてくることはなかった。
しかし、それから毎日、自分が喫茶店に行くと、その二人が向かいに座る。時々こちらとコミュニケーションをとるが、ろくに通じはしない。
沈黙が訪れるが、女性たちは気まずい顔をするでもなく、やがて居眠りをすることもあった。
馴染んできたのか、持っている菓子を差し出すと、喜んで受け取り、その場で食べる。
六泊七日の滞在中、五日間通ったが、あるときはビールを頼み、一杯飲むように勧めると、グラスを持ってきて飲む。
不思議な店であった。
ところで、「奥さんがいるのか」とたずねてきたのは、二人が結婚相手を探しているからではないか、勝手に想像した。二人とも四十歳ぐらいに見えた。
それにしても、実際の年齢よりもはるかに老けている自分が、独身かどうか聞かれることはまずないから、いかにも不思議である。この想像が当たっていたかどうかはわからないし、うぬぼれたわけでもない。
それはともかく、いろいろ考えていたら、はたと思い当たることがあった。
それは例のクリームで、韓国にも持って行き、毎晩塗っており、日ごとに黒さが増してきていた。
そうか、髪が黒いので、その分、若く見えたのかもしれない!
しかし、このクリーム、実は問題ありの代物だった。
(この話、続く)
文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。