東 雑記帳 - 一生に一度飲むだけで脳卒中で絶対に倒れない法

東 雑記帳 - 一生に一度飲むだけで脳卒中で絶対に倒れない法

今から二十年近く前、「一生に一度飲むだけで脳卒中で絶対に倒れない法」と大書されたチラシが都内の盛り場で出回り、話題になったことがあった。
当時、定期的に仕事をしていた健康雑誌の編集者がそのチラシを入手していて、コピーをくれて、こう言った。
「こんなこと書いていますが、インチキでしょうね」
いったい何回コピーをしたのか。印刷された漢字はつぶれかけているのもあった。

チラシには、配布元として、「神奈川県厚生年金受給者協議会横須賀支部」のクレジットがあり、もともとは「福岡市の小学校公聴会で配布された」と、出典も明記されている。妙に念が入っている。これまで数千人が試し、ことごとくの人が健在だという。
製法は、次のように箇条書きで説明されていた。

脳卒中で絶対に倒れない飲み物の作り方
1. 鶏卵 1個(白身だけ)
2. ふきの葉の汁 小さじ3ばい(ふきの葉の生を3~4枚きざんですりつぶし、それをこした汁)ツワブキは駄目です
3. 清酒 小さじ3ばい(焼酎は駄目)
4. 梅漬 1個をすりつぶす(土用干しした梅干しは駄目)塩漬けにしてやわらかくなったもの
「厳重注意」が付記されていて、①製法は必ず順番に入れる事 ②できるだけ一品を入れるごとによくかき混ぜる事。

こまかいことにまで配慮しており、それがかえって怪しい。それに、公共機関のようなところがこういう情報を出すことはないし、それも怪しい。編集者の問いかけに、
「一生に一度というのが、うさんくさいねえ。インチキでしょう」と答えた。

それから間もなくして、週刊新潮の「TEMPO TOWN」の頁にこのチラシが取り上げられていた。
担当者はこの神奈川県の受給者協会に問い合わせたところ、「まったく心当たりがありません」
福岡市の小学校校長会は、「いったい、なんのことやら」
この方法を体験しているとチラシに書かれていた鹿児島県国分市の養護老人ホームにいたっては。ホームそのものが存在しなかったという。
誰がみてもうさんくさいので、なんでもありの健康雑誌も取り上げるところはなかった。
その三、四年後、栃木から福島へ旅行したおり、栃木のひなびた喫茶店の壁に、このチラシのコピーが貼ってあるのを見て驚いた覚えがある。

このチラシのことを思い出し、今もネットにアップされているのではないかと思って検索してみたら、数は少ないが、この方法を紹介しているブログやウェブサイトがあった。今もネットに新規にアップされているが、どれも皆、ほぼコペピに近い。信じる人もいるのか、それとも遊んでいるのか。

それはともかく、この方法と同じように、一度服用(注射)するだけで、がんにならないなど、病気別の方法があればいいなあと、読売新聞朝刊の「編集手帳」の書き手のように“夢想”した。いや、それよりも、一度服用(注射)するだけで、すべての病気にかからない方法があれとばと、お馬鹿な夢想は続くのだった。

 

文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。