【お変わりありませんか】- 現代に使いたい日本人の感情、情緒あふれる言葉

【お変わりありませんか】- 現代に使いたい日本人の感情、情緒あふれる言葉

あなた 変わりはないですか
日ごと 寒さがつのります

都はるみさんのヒット曲『北の宿から』(作詞・阿久悠 作曲・小林亜星)の冒頭である。この後、

着てはもらえぬ セーターを
寒さこらえて 編んでます

と続く。
日本人の手紙の書き方には定型がある。
まず、季節のあいさつを述べてから、相手のことを伺う。そして、こちらの情況を簡単に記す。『北の宿から』は、最初に相手のことをうかがい、続いて「日ごと寒さがつのります」と時候の挨拶を述べたあと、自身の風景を客観的に描写する。
日本人の手紙の定型を崩しているが、それが聞く人を惹きつける。

「お変わりありませんか」は「お元気でお暮らしですか」という意味のあいさつ語で、近世以来ずっと使われてきた。会話で使われるし、手紙のあいさつにも使われるが、しかし、「お元気でお暮らしですか」よりも婉曲的であり、奥ゆかしい。
日本人は昔から、波乱万丈であることよりも、日々変わりがないことを由としてきたといわれる。特別によいことがあることよりも、何もよいことがなくても、日々無事平穏を好む。だから、「お変わりありませんか」という言葉がある。

読売新聞の人気4コマ漫画『コボちゃん』で、夏休み明けに登校した主人公・コボちゃんが、席が前後のクラスメイトたち、それぞれに向かって、「変わりなかった?」「変わりなかった?」とたずねる。級友が「うん、何も変わりなかったよ」と答えると、こぼちゃん、「変わりなかったよね」と、安堵と喜びの笑みを浮かべる。

「お変わりありませんか」は、あいさつとして会話で使われるし、手紙のあいさつにも使われる。変わりないは無事と同じで、「お変わりありませんか」は「お元気でお暮らしですか」という意味のあいさつ語で、近世以来ずっと使われている。
友人や知人から久しぶりに電話がかかってきたとき、「最近、どう?」とか、「最近、どうしてる?」などと、互いに相手の様子をたずねるものだが、「お変わりありませんか」と、まず自分から相手におうかがいをする。そうすると、相手のことを気にかけていることが相手に伝わる。
この言葉には、「あなたのことを心配していましたよ」という意味がこめられているのである。

 

文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。