【それでは私の気がすみません】- 現代に使いたい日本人の感情、情緒あふれる言葉

【それでは私の気がすみません】- 現代に使いたい日本人の感情、情緒あふれる言葉

現代日本のあいさつ、社交言葉の中で頻用されているのが「どうも(どーも)」と「すみません」の二つであることは、誰も異議を唱えないだろう。

「すみません」は、「申し訳ない」「ごめんなさい」「ありがとう」「ちょっと失礼」「悪いですね」など幅広い意味に使われている。
本来は、「すみません」は、「事が終わる」「気が晴れる」の意味の「済む」を否定した「済まぬ(済まない)」から派生した言葉で、「それでは私の気持ちがすみません」という意味を表す。
それでは、現代人が「すみません」を連発するさい、「それでは私の気持ちがすまない」
という気持ちを持っているかというと、けっしてそうとは限らないだろう。

そこで、ほんとうに「私の気持ちがすまない」という気持ちを示そうとするときは、本来の意味どおり、「それでは私の気持ちがすみません」と言えばよいのである。
「気がすまない」は「気がすむ」の否定形。「気がすむ」は「気がおさまる」「満足する」「心が落ち着く」などの意であることから、謝罪の場合の「気がすまない」は、「謝罪だけでは申し訳なく、自分の心が落ち着かないない」という意味が含まれている。

たとえば、他人の大事なものをうっかり壊したり紛失したりしてしまったとき、「すみません。弁償させてください」と謝り、申し出たところ、相手が、「いいよ、いいよ」と言ってくれたのに対し、「それでは私の気がすみません」と返す。
弁償するかどうかは個々のケースで違うだろうが、ほんとうに申し訳ないと思っているかどうかは別にして、誠意を示す格好の言葉である。ただし、この言葉を簡単に用いすぎると、他人から誠意のない人と思われるだろう。乱用はしないほうが無難な言葉である。

 

文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。