【泣く子と地頭(じとう)には勝てない】- 現代に使いたい日本人の感情、情緒あふれる言葉
「泣く子と地頭には勝てぬ」は日本の諺。
地頭は、平安、鎌倉時代、荘園の管理をした者。いくら言っても聞きわけなく泣く子と、無理無体に税を取り立て横暴をきわめる地頭には勝てない。正しい道理を説いてもとても効き目のないことをたとえていう。
皮肉もこめられているし、自虐的でもある。
現代では、「勝てぬ」は「勝てない」に言い換えることができる。
この諺は、地頭を他の言葉に替えると、生きた言葉として現代にも使える。
たとえば、同僚が上司のワンマン課長にやりこめられたが、立場上、抗弁はできない。納得していないが、しぶしぶ承知するしかなく意気消沈している同僚に向かって、
「泣く子とパワハラ課長には勝てないから、仕方がないよ」と言って慰める。
娘に弱い父親と、甘え上手、おねだり上手の娘。何か欲しい物があるときに限って、娘は甘い声でねだる。父親はその手を知り尽くしているのに、相好を崩し、「わかった、わかった」と二つ返事。
高価なブランドのバッグを買わされる羽目になってしまい、「泣く子と真央ちゃんには勝てないなあ」と後悔の臍を噛むが、後の祭り、時すでに遅し。
男と女は思考回路が違うようで、男は論理的、女は直感的、感覚的であると言われる。
そのため、話がかみ合わなくなるが、女の直感や感覚にはかなわないと言われる。
日本の夫婦は、家庭や子供のことについて、妻のほうが決定権を持っている場合が多い。
妻の尻に敷かれている夫が「かかあ天下」と同じ意味で、「泣く子と奥さんには勝てない」という言い方がある。
「今度の連休、どうするの?」と同僚に聞かれた男性、
「家族で四泊五日の沖縄旅行だよ」
「えー、いいなあ」
「よかあないよ。ほんとうは家でのんびりしていたいよ」
「そうか、家族孝行か、奥さんと娘さん、喜ぶだろう」
「喜んでいることは間違いないけど、“泣く子と奥さんには勝てない”から、仕方がないんだよ」
娘と妻がタッグを組むと、気が弱い父親(夫)はとても太刀打ちできない。
この言葉、娘や妻に向かって直接口にするのはリスクが伴うだろう。せめて、元の言葉を用いるほうが無難である。
家庭のことで妻と話をしたが、結局妻の言い分に押し切られたとき、
「わかったよ。泣く子と地頭には勝てないというから従いますよ」と、ぼそっとつぶやいてみるのもよいかもしれないが、この言葉に妻が怒らないという保証はないので念のため。
現代の感覚では、「泣く子と奥さんには勝てない」は女性蔑視の言葉と受け取られかねないこともわきまえておいたほうがよいだろう。
文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。