東 雑記帳 - 仏独手洗い習慣
新型コロナウイルスが流行するや、予防の1つにこまめな手洗いが奨励された。
去年の2月頃だったか、テレビに連日出演していた岡田晴恵・白鴎大学教授(専門・公衆衛生学)が、ドイツで感染が急増していることにからみ、「ドイツ人は手を洗わないですから」とコメントした。氏はウイルス研究所の研究員として彼の地に滞在したことがあるらしかった。
すると、番組を仕切っている局アナの男性がその発言にすぐに反応し、「そういう発言はあまりしないでください」と遮った。
この種の発言は差別的とみなされるようである。
同じ頃、フランス在住の日本人女性がメルマガで、「フランス人は手を洗わない」と書いていた。筆者の女性は結婚し、小学校に通う子供がいるが、手洗いを励行するように言っても、学校で周りの子供たちが手洗いをしないので、それに合わせる。結局手洗いが身につかないというのであった。
今や、日本人は世界一清潔な民族であると言われている。もともと、風呂好きで知られる。
それで思い出したのが、深田祐介氏の『西洋交際始末』に載っていた、作者の深田氏と知人で東京のフランス政府機関に勤めるフランス人女性、ニコールとのやりとりである。日本とフランスは、文化や習慣が逆さまという話になり、深田氏が、
「たしかにね、ニコール、日本の女性は百人が百人お風呂好きだけど、フランスの女性は一般的にお風呂嫌いでね、もっぱらオード・ド・コローニュ使って躰の臭いをごま化しているでしょう。だから日本じゃしょっちゅうお風呂に入っているけれど、向こうに行ったら、いっさいお風呂に入るのをやめる、なんてことも、ちゃんとサカサマの原理のうちに入るわけだ」
と言うと、ニコールはちょっとむきになって、
「フランス人はお風呂嫌いだってよくいわれるけどね、私なんかは子供の頃から一週間に一回、ちゃんとお風呂に入っていたのよ。日曜に教会へゆくまえにね。お母さんがお風呂に入って躰をきれいにしなさいって、とてもうるさかったんですよ」
ちなみに、この本が出版されたのは45年も前の昭和51年(1976)である。
インターネットを検索すると、「フランス人はトイレに行った後に手を洗わない」という記事や投稿がたくさん出てくる。今は平均的にはどうなのか、わからない。
文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。