東 雑記帳 - 塗ると翌朝には髪が黒くなる驚異のクリーム

東 雑記帳 - 塗ると翌朝には髪が黒くなる驚異のクリーム

今から一七年ぐらい前だっただろうか。新宿区にある歯科医院の院長を取材したが、そこの待合室にヘアクリームのチラシと資料が置かれてあった。それらは、今も捨てないでとってある。
チラシを見ると、それは「シルバーチェック」という製品名で、チラシには、「白髪の悩み解消」「もう危険性の多い白髪染めは必要ありません」などのコピーが書かれている。
そして、次のように説明されている。
「シルバーチェックは染色剤ではありません。毛髪のメラニン色素不足を補い、徐々に濃い髪色に戻します。髪の毛の色は、メラニンの量によって決まります。そのメラニンを生成しているのは、毛根にある毛母細胞です。シルバーチェックは毛母細胞に働きかけるのです。毛髪のメラニン色素不足を補い、徐々に濃い髪色に戻します」

この製品はオーストラリアで開発され、一九五七年から四八年の長きにわたり、世界六三か国の多くの方々に愛用されている。製造・販売の会社の創設者の一人、ワード氏は、オーストラリアの先住民族アポリジニには白髪の人がいないことに着目した。彼らは、湧き出る水で髪をすいていたという。
注文のチラシには、販売価格が載っており、一般、会員様、取扱店のそれぞれの価格が明示されている。ご紹介者の欄には、この歯科医院の名前があった。院長は区の歯科医師会の偉い人で、歯科の名医として名が通っていた。

取材が終わった後、そこのスタッフらしき女性が近づいてきて、こちら三十代前半の女性編集者と二人に対して、このクリームをしきりに宣伝する。女性の話では、クリームには、アポリジニが髪をすいていた湧き水のあるところの土か水か、あるいはそれらに含まれる成分かを配合しているということだったように記憶している。
その女性は私の年齢を聞き、「あなたより二歳年下だけど、私はこんなに髪が真っ黒でしょう」と自慢する。
女性に、男と比べて自分の黒髪を自慢されたのは初めてで、驚いたが、なんとなく買うことにした。五、六年前に消化器をあちこち取って一年後から、髪の腰がめっきり弱くなり、実年齢の割に白髪も多かったからだ。
そんなやりとりをしているところへ、院長がやってきて、微笑みながら「これ、本当に効果がありますよ」
しばし雑談したが、院長が離れぎわ、その職員に向かって小声で、笑みを浮かべながらであるが、「あまりおおっぴらにやらないように」と、やんわりとたしなめるのが耳に入った。

さてその夜、風呂に入って髪を流したあと、くだんのクリームを頭にまんべんなく塗って
みた。べたべたはしなかった。スポーツ刈りにしていたので、塗るのは簡単だった。
そして翌朝、顔を洗うときに洗面台の鏡を見て驚いた。髪が黒みを帯びてきているではないか。しかも、根本からである。
(この話、続く)

 

文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。