東 雑記帳 - 散歩時も鼻からしか呼吸しなかった、カント
『純粋理性批判』などで知られるドイツの大哲学者、イマヌエル・カント(1749~1832)は、健康のために度を超した規則正しい生活を送っていたが、そのことは割合よく知られている。
カントは、一七五五年、三十一歳でケーニヒスベルク大学で学位を取得。その後は大学の講師として、活動できるようになった。規則正しい生活は、これ以後に始まったようだ。
夏も冬も正確に5時に起床し、コーヒーを飲み、著作活動にはげみ、講義をし、食事をし、散歩する。
これらの時間は決まっていた。散歩は午後3時半で、哲学の道と言われる道を散歩した。夕方6時に散歩から帰ると、食事をし、読書をし、夜10時には床に就いた。食事は、昼食はバターとチーズを豊富に使い、数時間かけてよく食べたが、朝と夕はワインと水だけで、ワインも適量を守った。
そして、数々の決まり事があった。散歩中、絶対に口では呼吸しないというのもその一つ。
──口からの呼吸は急激に肺を冷やし、リウマチになる。
それが鼻からしか呼吸をしない理由だった。
カントは、真理を見抜いていたのだった。
他の動物とは違い、人間は鼻と口の両方で呼吸する。呼吸ができる。これは進化なのだろうが、それゆえ、それがさまざまな病気の発症に影響したり原因となったりすることが、現代では明らかになってきている。
その典型が自己免疫疾患やアレルギー疾患で、代表的なものの一つにリウマチが挙げられる。そして、それを改善する方法として、口の体操「あいうべ」などが広まってきた。
人間は口でも呼吸できるから、運動時に鼻で呼吸するだけでは苦しくなると、鼻と口の両方で呼吸する。大笑いする、おしゃべりする、歌をうたう、食事のときに会話する、口を半開きで咀嚼する……等々、口呼吸が癖になる陥穽はさまざまある。
散歩もまた、うっかり早く歩いたりすると、口で呼吸しかねない。だから、哲学者カントは、絶対に鼻からしか呼吸しないと決め、気をつけていたのだろう。
文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。