東 雑記帳 - 東京駅八重洲口改札前で網を張っていた自衛隊スカウト
中学のときも高校のときも、自衛隊の説明会があった。8ミリフィルムを移し、自衛隊のことについて説明し、勧誘する。自分は当時から近視で、近視の者は自衛隊に入れないと聞いていたし、理由はそればかりではないが、自衛隊に興味も関心もなかった。
26歳の頃だっただろうか、何をやってよいかわからず、東京を離れて故郷に戻ろうと思った。仕事は、故郷は北九州がすぐ近くで、戻れば何かあるだろうと、その程度の考えだった。
故郷に帰る途中、名古屋の親戚の家によって一泊するつもりだったのか、大阪の先輩の家に寄るつもりだったのか、夜行の急行に乗ろうとしていた。東京駅八重洲口の改札に向かおうとしたとき、中年の男2人がにこやかに笑みを浮かべて近づいてきて遮り、猫なで声でこう話しかけてきた。
「故郷へお帰りですか」
いきなりこう言われて、とまどい、あいまいに頷いた。
その後、2人組の男がどのように話を展開させたか覚えていないが、彼らの目的は自衛隊への勧誘だった。
断って改札を通り、電車に乗って座席に着いてから。「故郷に帰るのですか」と聞いてきた言葉の意味をふと考え、すぐに直感した。
あれは、家族や友達に会いに帰るということではなく、東京を捨てて故郷にUターンしようとしているかどうかを聞いてきたのだった。
東京で挫折し、故郷に帰る失意の若者を自衛隊にスカウトする。この方法は自衛隊のマニュアルにあったのだろうか。その後にわかったが、自衛隊がここでスカウトをすることはよく知られていることだった。
それにしても、自分がそのスカウトに声をかけられるとは、やはり相当しょぼくれていたのだろうと、今になっても思う。
文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。