東 雑記帳 - 枕元に灰皿と水差しを置くのがもてなしのひとつだった
家にお客さんがあって泊まっていくとき、枕元に灰皿と水差しを置く。それが来客に対するもてなしのひとつだった。
昭和40年代初め。この頃はまだ、男はタバコを吸うのが普通あったし、水商売はもとより、女子学生やOLの中にも吸う人を見かけるようになっていた。
だから、枕元の灰皿は納得できる。寝る前に一服したり、朝目が覚めたらまず、うつ伏せでタバコに火を付ける。
その以前から寝たばこは普通にしていたし、だからタバコの火の不始末による火事も多かった。
大学に入って19歳か20歳のとき、兵庫の友人の家に泊めてもらったとき、その友達の母親が敷いてくれた布団の枕元に灰皿と水差しが置いてあるのを見て、うれしくなった。一人前の大人の男として扱ってくれたと思ったからだった。
それにしても、灰皿はわかるが、水差しがなぜ、あんなに普及したのだろうか。どこの家にも陶器の水差しがあった。水差しは同じ素材によるコップとセットになっており、コップは蓋の役目もしている。
男は酒を飲むので、飲み過ぎると夜中に喉が渇き、水が飲みたくなる。それはわかるが、どの家にも同じタイプ、大きさの陶器の水差しがあるとは!? きっと誰かかどこの会社かがビジネスとして仕掛けたのだろう。
この水差しは、忽然とではないだろうが、いつの間にか家庭から消えた。
あの陶器の水差しはどこに行ってしまったのか。古道具屋に行けば見つかるのか。見たことはない。ネットではガラス製の水差しを売っている。テイストが違うが、妥協して使っている。
文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。