東 雑記帳 - 糞便移植第一号は、かのナチス・ヒトラーだった!?
腸は万病の元、という考え方は先年二千年昔からあった。
現代にも腸にスポットが当たっていて、「腸は脳を支配している」「人間の遺伝子情報(ゲノム)は自らの腸内細菌によってコントロールされている」との情報も発信されている。現代医学の世界で腸が病気の大本として注目されるようになったのは30年ぐらい前からだろうか。腸内細菌の秘密が解き明かされてきたからだった。
そして、糞便移植がアメリカで始まり、それを追うように日本でも糞便移植の研究と臨床試験が始まった。大新聞は、夢の新治療と書き立てた。糞便移植は、健康な人の糞便中の善玉菌を採取し、それを口から、あるいは肛門から体内に取り込む。
数年前、糞便移植の臨床試験を行っている医師のセミナーを受講する機会があったが、その医師は開口一番、「(大新聞などのメディアの)皆さんは、糞便移植を夢の新治療と言って、何でも治るようなことを書いていますが、そんなに簡単にうまくいくものではありません」と、いきなりカウンターパンチを放った。
どういう問題があるのか、その説明がなされたかどうかよく覚えていないが、けれど、当時すでにアメリカで糞便移植による死亡例があったことが報道されていた。
その人の腸内細菌叢(ヒトマイクロバイオーム)は、その人固有のものである。
実は、世界で糞便移植を最初に受けたのは、かのナチス・ヒットラーであった。リチャード・ゴードン著『歴史は患者でつくられる』に次のような記述がある。
ヒトラーは、腸内に生存する不完全でくたびれたバクテリアを追い払うため、元気のよい生きたバクテリア入りの赤いカプセルを飲み込んで、彼の消化障害に対する勝利を熱狂的に宣言した。(中略)カプセルの中のバクテリアはブルガリア人農夫の大便の中で発見された細菌株の子孫で、これがヒトラーがした唯一の民主的で友好的な意志表示だった。
以来80年もの歳月が過ぎている。この間、糞便移植がどのように進化したか、その歴史を知りたいと思っているが、わからないままである。
それにしても、糞便を丸ごと移植するわけでもないのに、糞便移植はないだろう。
それはともかく、ヒトラーのナチス健康帝国は、タバコは肺がんの原因になるからと、世界で初めて喫煙を禁じた。ヒトラーの異常ともいえる健康志向とその施策について稿を改めたい。
文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。