東 雑記帳 - 続・スルメ(あたりめ)は日本の発酵食品

東 雑記帳 - 続・スルメ(あたりめ)は日本の発酵食品

スルメ(あたりめ)が発酵食品であるという記述を読んだのは週刊誌だった。その記事を保存していたはずだが、どうなったのだろうかと思いつつ、大晦日近くになって片付けをしていたら、たまたまその記事が出てきた。重いが通じたのかもしれない。

それは週刊朝日の連載「日本乾物紀行」の〈25〉するめ(北海道松前町)の回(2004年7月2日号)の記事であった。(文と写真 池辺史生)とある。
記事によると、北海道松前町には当時、二十数軒の加工所があるが、全面的に天日干しでつくっているのは、三上さんという人、一人だけ。他は機械干しでつくっており、その理由は効率がよいからだった。
にもかかわらず、三上さん天日干しを貫いている。

三上さんはあるとき、天日干しと機械干しのスルメとを道立の工業技術センターに持ち込み、調べてもらった。生菌が、天日干しは機械干しの280分の1という少なさだった。
「外に干したのは不衛生に見えるが、そんなことはない。日光の殺菌力はすごいんだ。味も歯ざわりも天日干しのほうがいいから、機械干とし比べて二割近く高く売れる」
と三上さんが力説をするのを聞きつつ、前に読んだ『知って得する最新食べ物学』(稲垣馨著)の記述を思い出したと、文は次のように続く。

筆者が九州大学農学部の教授だったころ、「火力乾燥機を導入してスルメをつくったが、日干しのものよりも味が悪く、困っている」と漁民から相談されたときの話である。
研究室で分析すると、従来のスルメからは、うま味成分のイノシン酸が多量に検出されたが、火力乾燥のもの、並びに大学の屋上で試作したものからは、イノシン酸が検出されないばかりか、他のアミノ酸も少なかった。
イカを干せば干しイカにはなるが、スルメにはならない。
スルメは発酵食品であることがわかった。作業場の道具などに棲みついている微生物がイカに付着して、うま味成分をつくっていたのである。

乾燥機に入れた新工場にはその微生物がいなかった。そこで、使い古しの木桶に半生干しのイカを一夜漬け込むという工程を復活させ、問題を解決したという。
「なんとも味わい深い話である」と、スルメ発酵食品説を締めくくっている。
しかし、昔のスルメは乳酸菌発酵の味がしたと思っていたが、特有の味がイノシン酸の味だったとは!?
あと一回、スルメの話が続く。

 

文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。