東 雑記帳 - 葉緑素入りキャラメル

東 雑記帳 - 葉緑素入りキャラメル

昭和二十九年五歳の春、桜の季節。
祖父が急に「ぼく、荒神様に花見に行こう」と言い出した。

荒神様は、家から東へ歩いて五、六分、集落がはずれたところにあった。
国道沿いの際、道路の山側に荒神様を祀っている小さな祠がある。その山側に桜が何本か植えられていた。

祖母だったと思うが、弁当をつくってくれた。おにぎりだったかもしれない。それと、上の今田商店で買ってもらった葉緑素キャラメルを持って、祖父と二人して出かけた。

そのときの桜がどんな模様だったか、まったく覚えていない。花見に興味などまったくなかっただろう。記憶に残っているのは、緑色をした葉緑素キャラメルだけである。ミルクキャラメルとは少し香りが違ったように思う。味も違い、これが葉緑素の味かと思ったことは覚えているが、ではどんな味だったかと聞かれるとわからない。が、しかし、おいしかった。
当時、ときどき、かばやのキャラメルを買ってもらうことがあったが、葉緑素キャラメルは初めてだった。

その後、二度と葉緑素入りキャラメルを買ってもらうことはなかった。今田商店で常備の商品として売っていたのかどうか。

この葉緑素キャラメルのことはずっと気になっていたが、最近になってインターネットで調べてみたら、渡辺製菓がつくっていたとわかった。後年、「渡辺のジュースの素」で一世を風靡した、あの渡辺だったのだ。
正式な製品名が「渡辺グリーンキャラメル」であり、昭和二十九年に発売されたことも知った。とすると、買ってもらったときは、発売されたばかりのことだったのだ。
「こんど、こんなキャラメルが入ったんよ」
「そうかね、それなら、うちのしげよしに一つ、買ってあげようかねえ」
こんな会話が、今田商店のおかみさんとうちの祖母の間で交わされたのだろうか。

その後、葉緑素入りのガムがロッテから発売され、これはよく噛んだものだが、懐かしいという気持ちはあまりない。今、葉緑素入りのキャラメルをつくっているメーカーはないものかと調べたが、ないようである。

 

文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。