東 雑記帳 - アメリカ人は肉を食べるために走る
一九七〇代後半のアメリカ、ジョギング、ランニングがブームになった。一九七七年、『奇蹟のランニング』という本が出版され、著者は健康法としてのランニングを提唱。これがきっかけでランニングが大流行したのだった。
ところが、その提唱者が一九八四年にランニング中に突然心臓発作を起こして急死。こののち、『危険なジョギング』というタイトルの本が出版された。ジョギングに潜む危険性を指摘し、行き過ぎに警鐘を鳴らしたが、しかし、ジョギング、ランニングはアメリカ社会にすっかり定着しており、衰えることはなかった。
二〇〇〇年頃だっただろうか。運動健康指導士の学会で、当時著名な運動生理学か体育学の教授の講演を聴講することがあった。
内容は忘れてしまったが、強く印象に残った話があった。それは、カリフォルニア大学の運動生理学の大御所ともいえる教授の言葉で、次のようなものだった。
「アメリカ人は肉を食べたいために、毎朝一生懸命ランニングする。そして夜、肉を思い切り食べる」
食べるために走る。それは、肉の害を解毒するためだった。
それからまた何年かたって、夜遅く、自宅の居間のテレビをつけていたら、今のCSのような有料チャンネルでエディ・マーフィーの映画をやっていた。ビバリーヒルズ・コップのうちの一作品だったと思う。
仕事の手を休め、見るともなく見ていたら、パトカーの助手席に座っているエディ・マーフィー演じる警察官がこんな言葉を吼えるのが耳に入り、残った。
「アメリカ人の腸には20㎏、肉の滓が詰まっているんだからな!」
どういう脈絡で言ったのかはわからなかったが、肉が消化しきれていないということだろう。あるいは、解毒できていないということなのか。
それはともかく、来日した米国大統領は朝、皇居の前あたりを走る。コンサートのために来たポップスの大歌手も、ヴォイス・トレーニングはそっちのけにしてジョギングにいそしむ。
この人たちもまた、大量の肉の滓を腹に溜めているのだろうか、などとくだらないこと想像してしまった。
文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。