東 雑記帳 - すれ違いざまに「こんにちは」疾風のごとく去って行く
住まいの近くを歩いていると、歩道を向こうからかなりのスピードを出した自転車が二台、三台、四台とやってきて、すれ違いざまに、「こんにちは!」。ヘルメットをかぶった若い白人の女性たちが、頭を下げる。そして、疾風のごとく去って行く。追い越しぎわに、同様に「こんにちは」と、挨拶することもある。
こちらは、あっけにとられるだけ、挨拶しようにも、挨拶する間はない。
こういう場面に時々遭遇する。白人の若い男性のこともある。やはりヘルメットをかぶっている。
地元で顔馴染みの人にあるとき、そのことを話題にして、
「すごいですね。気がついたときはもう通り過ぎている。挨拶というのは、「一方が『こんにちは』と言ったら、相手もそれに答えて『こんにちは』などと返す。それで初めて成立するもの。自分が一方的に言えばいいというものじゃないでしょう」と、暇つぶしに勝手な理屈を言い立てたところ、その年上の人が、
「ダメ、ダメ、挨拶を返したりしたら、連れて行かれてしまうよ。相手にしたら、ダメだよ」
彼らは某宗教団体の人たちで、自転車に乗るのに必ずヘルメットをかぶっているのも、訳あってのことだった。
つい先頃は、駅の改札を出たばかりのところを、自転車を引いている若い白人の女性二人出くわし、「こんにちは」と挨拶された。二人は微笑んでいたが、いきなり過ぎる。こちらは身構え、挨拶を返す余裕はなかった。田舎ならともかく、都市化した地域で、知らない人に笑顔で挨拶するなんて、やはりあやしい。
と、そんなことを考えながら、駅前のロータリーを通り抜け、居酒屋を曲がって大通りに出たとき。高校生一。二年生ぐらいと思われる男の子が自転車に乗って向こうからやってきて、すれ違いざまに、「メガネのおじさん、こんにちは!」と、一気に早口で言ったと思ったら、疾風のごとく去っていった。
「なんだ、あれは!?」 と、あっけにとられた。まあ、「メガネのじいさん」と言われないだけでもよかったのか。
あの男の子は、「こんにちは!」と言ったとき、こちらの顔は見ていなかったなあ。
帰宅して、家の者にその男の子のことを話していたら、「あの子、将来、大丈夫なのだろうか」と、なんだか気になってきたのだった。
文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。