東 雑記帳 - 海に流した子猫の鳴き声が今も脳裏にこだまする
小一のときだったと思う。
ある日、祖父に連れられて浜へ産まれたばかりの子猫を捨てにいった。
母猫は、チョロという名前で、子供を五匹産んだ。そのうち一匹を残し、四匹を処分することになったのだろう。
産まれたばかりの猫五匹を並ばせ、お尻を突っついて競争させたが、どれも真っ直ぐ進むことはなく、レースは成立しなかったが、それをこりずに何回もくり返し行った。
産まれてから数日後だっただろう。幼い猫はまだ目が開いていなかった。祖父に突然、「ぼく、浜へ行こう」と言われ、ついて行ったのだった。
当時、防波堤はつくられておらず、きれいな砂浜で、六月には貝掘りをして、アサリや巻き貝をとった。大きさ数ミリのタコの子供も見つけて喜んだものだった。
お菓子の紙箱か、その蓋だったかに幼い猫を載せ、海に流すと、猫はいっせいにミャーミャー、ニァーニァーと泣きはじめた。
引き潮だったのだろう、子猫を載せた紙箱はゆっくりゆっくり沖へ引っ張られ、四匹の猫の鳴き声がこだました。
それをどれぐらいの時間見ていたのだろうか、数分だっただろう。
波の上にいる四匹の子猫に後ろ髪を引かれたが、祖父の「ぼく、いのう」という言葉に誘われ、家に戻っていった。
猫を海に捨てた場面は記憶にしっかり残り、時々脳裏に浮かんできた。そして、そのたびに、頭の中で子猫のミャーミャー、ニャーニャーという鳴き声がこだまする。今も。
文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。