東 雑記帳 - 速効黒髪になるクリームは鉛入りだった
夜寝る前にシルバーチェックという名前のクリームを頭に塗ったところ、翌朝には髪が黒みを帯びてきていた。しかも、根本からである。この速効性には驚いた。
それから毎晩、入浴して洗髪した後にこのクリームを塗ったところ、一日ごとに黒みが増していった。
塗り始めて十七、十八日たった頃だろうか。朝、新聞を開くと、「くらし」の面に、「人気の髪が黒くなるクリームは鉛が入っている」との記事が目に飛び込んできた。鉛が含まれているので使用しないほうがよい、と消費者センターが呼びかけているという。記事の内容から、
そのクリームは自分が使用しているシルバーチェックであるとわかった。
へぇーと少し驚き、このクリームのチラシや製品に付いていた案内をあらためてみた。すると、内容成分の欄に書かれている十のいちばん最後に「酢酸鉛」とあった。
思い返すと、忙しいこともあって、チラシや製品案内などにろくろく目を通さなかった。オーストラリアの湧水や泥を利用してつくられていると、勝手に思い込んでいた。
のんきなものである。それに、人の言うことはなんであり、まず信じる性格が影響したのだろう。
取材であれば綿密に調べ、頭から信用はしないようにするが、このクリームは取材とは関係なかった。
消費者センターの警告があったのち、インターネットにはこのクリームに関する記事や投稿がたくさん出ていた。
その中には、知っている医師が二人いて、二人とも「鉛が含まれているがごく少量なので心配ない。髪が黒くなるというベネフィットのほうが大きいので、今後も使い続ける」と書いていた。二人とも代替え療法を治療に取り入れている医師だった。
自分はというと、リスクを冒してまで髪を黒くしたいわけではないので、これを機に使うのをやめた。
こちらにこのクリームを勧めた、くだんの歯科医院の女性は、新聞に記事が載ってから、一度も電話してこなかった。
なお、このクリームは日本の薬事法に抵触するため、現在では販売されていないようである。個人輸入のサイトが見つかった。
文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。