東 雑記帳 - フグに当たると土に埋めるのは、理に叶っている!?
フグに当たると土の中に埋めたという話は、昔は実際にあったようだ。
子供の頃、明治二十四年生まれの祖父が、フグに中毒した者を近隣の人が総出で土に穴を堀って、首だけ出して全身を埋めたという話をしてくれたことがあった。
助かったかどうかは聞かなかったが、おそらく助からなかったのだろう。
祖父が生まれた周防大島はフグ料理屋などなかったはずである。トラフグなのか何フグなのか、自分で釣り、自分でさばいて食べて、中毒したのだろう。──フグは食べたし、さりとて中毒は恐い。がしかし、欲に負けて食べた果てのことだったのか。
それにしてもなぜ、土の中に埋めるのか。
あるとき、諏訪湖の砂浜で砂浴をしたことがあった。その近くの鍼灸師だったか整体師だったかが砂浴を治療院の患者に指導していて、いろいろな症状や病気の改善に効果が得られていると聞き、仕事関係の知人と二人のこのこ砂浴に出かけたのだった。
砂浜を掘ることもせず、仰向けに寝て、砂をかけてもらうと、ずしりと重い。どの程度砂の厚みがあるのか、確かめるために上体をわずかに起こしたが、ほんの少しで、埋めた(埋められた)という状態にはほど遠い。しかし、とても重いのである。
もう一度仰向けに寝て、首、肩から足先まで砂をかけ直してもらったところ、すぐに手足の先が微振動するのに気がついた。少し、くすぐったい感じで、末梢の血流が促進しているとわかった。
心臓へ還る末梢の静脈が激しく動いている。
砂浴にはそういう効果かがあると、体験して初めてわかったのだった。
末梢の毛細血管は圧迫されると閉じてしまい、途絶し、細小静脈に流れない。心臓から出た血液は、大動脈、動脈から細小動脈へ行き、毛細血管で酸素と二酸化炭素の交換を行ってから、細小静脈へ流れ、次第に大きな静脈へ集まり、心臓へ還る。
毛細血管が途絶しては困る。そこでどうなるかというと、毛細血管にはバイパスがある。
それが副血行路とかグローミューと呼ばれるもので、この副血行路が開き、血液はここを通って細小静脈へと流れる。
血液循環が促進することで、解毒できる。
この理論を教えてくれた医師に取材した折り、フグに中毒すると砂に埋めることについて聞いたところ、「ええ、あれは理に叶っていますよ」と答えてくれた。
文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。