東 雑記帳 - バランスよく食べると、バランスよく癌になる
國頭英夫医師はがん専門医として長年診療に携わってきたが、他方で書き手として現代の医療のあり方に提言をし続けている。里見清の筆名で『偽善の医療』『「人生百年」という不幸』『医学の勝利が国家を滅ぼす』など(いずれも、新潮新書)などの好著を出版している。
『医学の勝利が国家を滅ぼす』の1項目で、健康によいといわれるものを摂り過ぎる風潮を取り上げ、「だいたいこの世の中に、『多ければ多いほど良い』なんてものがそうそうあるわけがない」と明言。「不足してはまずいものを『○○は××に効く』式のキャッチフレーズにつなげるのは論理的に無理がある。その飛躍を埋めようとするから、ヤラセが横行するのである」と指摘し、さらにメディアについても批判の刃を向け、次のように話しを展開している。
(前略)人間は物事の複雑な二面性を評価するのは苦手のようで、どうしても「善玉」「悪玉」のレッテルに飛びつきがちである。だいぶ前に、NHKの健康番組に呼ばれたことがあるが、事前の打ち合わせで「癌にならないための食事」を聞かれて言葉に窮した。
「まあ和食だと胃癌が多いし、洋食は大腸癌が増えますし」と言うと、「やはりバランスよく食べることですかね」と念を押された。
「そうしたら、バランスよく癌になるんじゃないですか」と答えたところ、向こうも困ったらしく、「この話はなかったことにしましょう」。以後、絶えて久しくNHKからお呼びはかからない。
テレビもそうだが大新聞も、この手の話はあふれている。要は無難な結論に落とし込むのが常で、その極めつきの文言が「バランスよく」である。この言葉を出されると何となく納得してしまうが、その中身が問題で、たいていは何の役にも立たないことが多い。里見氏がNHKの担当者に対する発言は見事にそれを突いているが、それにしても、きつい言葉だっただろうと思う。が、しかし、担当者がそう感じたかどうかはわからない。
文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。