東 雑記帳 - 宮島詣で
5歳のときの7月、宮島詣でをした。例年の大祭である。
回船業を営んでいる親戚のおじさんが、船を出し、集落の総勢20名ぐらいがくり出した。瀬戸内海を北上していく。祖父と母、姉の4人連れであった。
船長は祖父の甥、母のいとこであった。
安芸の宮島の港はすでに、船でいっぱいであった。どのくらいの数かはわからなかったが、壮観であった。海の中に鳥居が立っている。
錨を下ろす段になって、祖父が「わしがおろしちゃる」と言って、下ろそうとしたのだが、錨は重い。投げ下ろしたとき、反動で引きずられ、錨とともに海にほうり投げられてしまった。
祖父はすぐに引き上げられたはずだが、その場面はまったく記憶にない。
上陸した宮島は、たくさんの出店で賑わっていた。しかし、目白がくちばしにくわえて取ってくるおみくじが印象に残ったくらいで、あまり覚えていない。一緒に行った50歳ぐらいのおじさんが、「インチキな万年筆を買わされた。だまされた!」とぼやいていた。香具師が売るのだから、まともな商品があるわけがない。
神社にお参りをしたはずだが、まったく記憶にない。
さて、ぼくのじいさんが落ちた海だが、停泊した船に泊まり込み、観光をする人たちも少なくなったようであった。
いつ耳にしたのか、記憶はあいまいだが、同行の1人の男がこう言っていた、
「ひがしのおじいちゃが、ウンコが浮いている港に落ちたからなあ」
船の用便は、船尾にしつらえてある便所で足すのだが、もちろん垂れ流してあった。
文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。