【鹿島立ち(かしまだち)】- 現代に使いたい日本人の感情、情緒あふれる言葉
鹿島立ち(かしまだち)は、「旅行に出発すること。旅立ち。門出」の意味である。
鹿島は茨城県鹿島町にある鹿島神宮のこと。「鹿島立」の語源は、天孫降臨のときに、鹿島・香取の二神がまず先に行き、葦原の中つ国を平定したことにより、鹿島の神が軍事をつかさどる神として軍旅に際して参拝されたことに基づくとも、また、防人が旅立つ前の日に、鹿島神宮に鎮座の阿須波明神に旅の安全を祈ったからともいわれる。
森村誠一の『魔少年』に次のくだりがある。
少しでも早くこの天敵を始末した文字どおり日本晴の新生活への「鹿島立ち」の朝を迎えるのだ。
ここでは、「門出」の意味で「鹿島立ち」という言葉を使っている。
「鹿島立ち」は「旅立ち」や「旅行に出発」などに比べ、雅な言葉である。先に挙げた由来を知ると、いっそうその感が強くなるのではないだろうか。
手紙で、
「博多支社への転勤の辞令が出て三日目の鹿島立ち、出発前にご挨拶することもままならず、たいへん失礼いたしました」
などという使い方ができる。
現代の感覚では、旅立ちや転勤に「鹿島立ち」とは何をおおげさなと思うむきもあるかもしれないが、手紙だからこそ、こういう時代がかった言葉を使っても、そぐうのである。先の『悪少年』の例でも、「三日目の旅立ち」では、当たり前過ぎる言い方で趣きに書けるではないか。現代文に、「鹿島立ち」のようなちょっと古風で雅な言葉を彩りとして使うことで文は豊かになる。
文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。