【お加減いかがですか】- 現代に使いたい日本人の感情、情緒あふれる言葉
病気をわずらっている友人や知人に、その後の様子をうかがうとき、「体、どう」というが、ぞんざいな感は否めない。「病気、どう」では、病人の心にあまりにも無頓着というもの。
病気をわずらっている人は、病名を直裁的に口にしたくないものである。まして、言われたくもないのは、当然だろう。
こういうときに用いるとよいことばが、
「お加減(は)いかがですか」である。
「加減」は、二つの漢字のとおり、加えることと減らすこと。物事を調整する意味もあり、物事の調子や程度も表す。特に健康、天候、味覚などの様子をいう。
体の具合、健康状態のことであるが、気を付けないといけないのは、健康な人に対していう言葉ではないということである。
健康な人に対してこの言葉をいうと、本人が「病気でもないのに、どうしてこんなことをいうのだろうか」といぶかしがる。あるいは、病気をわずらっているが知人や周囲に隠している場合、「私の病気のことを知っているのだろうか」と、これまた不可解に思うだろう。
それでは、「お体、いかがですか」はどうかというと、これも病気ではない人にいうのはおかしい。
「加減」ということばは、今ではあまり使われなくなった。つい数十年前までは、風呂の温度を「湯加減」といって、「お湯の加減はどうですか」などといったものである。オール電化でお湯の温度を設定できる今、手でお湯の加減をみることがあまりなくなったことも関係しているのだろうか。
他に「加減」が付く言葉に、「さじ加減」「味加減」「いい加減」などがあるが、「さじ加減や」「味加減」も以前ほどには使われなくなったように思える。加減は人間の感覚で判断するものだが、電子機器が加減を自動調節してくれる現代、使われなくなるの無理はないのだろうか。
「お加減いかがですか」は、現代の感覚では話言葉には使いにくいかもしれないが、年上の人には使えるだろう。相手に違和感も持たれないと思われる。また、手紙やメールなどの書き言葉には使えるし、したためる側に違和感は少ないのではないだろうか。
「その後、お加減はいかがですか(いかがでしょうか)」と始めると、やわらかい雰囲気を醸し出される。
文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。