【手許不如意(てもとふにょい)です】- 現代に使いたい日本人の感情、情緒あふれる言葉

【手許不如意(てもとふにょい)です】- 現代に使いたい日本人の感情、情緒あふれる言葉

「手許」は、「生計をたてるための金。また、暮らし向き」の意味。「不如意」は、「意の如くならず」の意味で、「手許不如意」は「経済的に苦しいこと、また、そのさま」「思い通りにならないこと、また、そのさま」を表す。

手許不如意は、生活が苦しいという意味だが、お金にあまり余裕がない状態を自虐的に言う場合がある。
たとえば、寄付を募られ、少額しか寄付できない場合。「お金がないんですよ」とか、「あまり小遣いがありません」などというと直裁的に過ぎる。それを「手許不如意です」というと、本来は深刻な状況を表す言葉であるのに、現代においては違った趣きを醸し出す。

言われたほうを煙に巻く効用もあるだろう。たとえば、次のような使い方をする。
友人や知人に贈り物をするとき。お金をかけ過ぎると、もらった相手にとって精神的にも経済的にも負担になりかねない。とくに日本人には贈答の習慣があるから、相手はたいてい返礼の品を送ってくる。
旬の名産を送る場合も、おいしいからたくさん送ればよいというわけではない。相手が負担にならない範囲で送ればよいが、そうすると、物足りない感じがぬぐえなかったりする。そういう場合、御礼を言ってきた相手に電話で、
「ほんとうはもっとたくさんお送りすればよいのですが、手許不如意なものですから……」と、さりげなく一言付け加えるとよいだろう。

別に不如意であろうとなかろうと、かまわない。相手が日本人なら、素直にそのとおりに受け止める人は少ないだろう。卑下、あるいは謙遜、自虐の言葉と解釈する。「どうして不如意なんですか。何かあつたのですか」などと直裁的に聞いてくることはないだろう。
ただし、手紙などの書き言葉としては使わないほうがよいだろう。深刻にとらえられかねないからである。

 

文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。